変な訛りの手品師なんかじゃない

ターミナル駅で降りた。
僕と先輩は上司をその電車に一人残して。
なんかよくわからず降りてしまったが、どうやって帰ったらいいんだろう。
先輩はどうやって帰るんだろう。
僕の方が手前ではあるが、大体方向は同じであることはさっき聞いた。
あ、でもこれタイミング的にはあれだよな、と階段を降り切ってから思った。
タイミング的には一杯やりませんか?っていうようなタイミングだよな。
まあでもまだ家まで結構あるし、さっきは3人だったけど、2人で話す事があるだろうか。想像できない。


「じゃ、こっちだから」、と先輩は飲みに行くタイミングなんて始めから無かったよとでも言わんばかりにあっさりと去ってしまった。
いや、違う、単純にタイミングを逃しただけだ。
違う、それも違う。
タイミングを活かしたところでそこにどんなメリッとが、むしろ話題を探すのに苦労しそうでやだなっていう損得感情が働いただけだ。


それにしても僕は一つ大変な事に気付いてしまった。
危ないところだった。
何かの弾みで言わないとも限らない。
しかも一文字しか違わないのに、もしこれを言っていたら、先輩は今後蔑んだ目で僕の事を見るだろう、ととりあえず一番早いかわからないが、間違ってはいないであろう私鉄の改札にPASMOをタッチしながら僕は想像していた。
そして列に並び、ホームに入って来た電車の大音量にまぎれるように呟いてみた。
「一発やりませんか?」