隠れた名店

これは会社の先輩の体験した話である。
その日先輩は昼に飯田橋のとあるラーメン屋に入った。
カウンターに座り、ラーメンを食べていると、「やっぱ兄ちゃん、若いんだから昨日のサッカー見たんでしょ?」とカウンターの向こうにいる店員のおばちゃんが喋っていたが、そのあまりの唐突さにまさか自分に話しかけているとは思ってもみなかった先輩はこれを無視、結果おばちゃんから「ちょっとあんた聞いてんの!」と叱責を受ける破目になり、そこでやっとおばちゃんが自分に対して話しかけている事に思い至った。
先輩はサッカーが深夜だった*1ので、見ていない旨を先方に伝えると、「なんだい、あんた非国民だね。」って言われた。
じゃあおばちゃん見たのかって聞いたら「あたしはいいんだよ、おばちゃんなんだから」と言われ、絶句。
ここはそういう、客に一方的に話しかけた挙げ句、気に食わない回答は突き放すタイプのラーメン屋なのか…とか思ってたら、常連さんらしき人が入店、おばちゃんが「あら、◯◯さん、ビフィズス菌どうなった?」とか言うので、ビビっていたら、常連さんは「ああ、上澄みがねぇ」とか答えていて、上澄みぃ?!などと思う間もなく、他のお客さんが突然「う、上澄みは、か、体に、い、良いんですよね」などと会話に入ってくるなどする。
この店に気にいられるタイプの客になろうとわずかばかり考えていた先輩だったが、そもそも何の話をしてるのかわからないので、しゃしゃり出るわけにもいかない。
まんじりともできずにいると、二階席からはまるで宴会でも行われているかのような大爆笑が聞こえ、ここに至って、自分がひどく場違いな所にいる事に疑う余地が無くなり、そそくさと店を出たと言うのだった。
幸いにも店名も正確な場所ももう覚えていないので、僕には行きようが無い。
ほっと胸を撫で下ろしています。

*1:午前3時に放送された日本対デンマーク戦